第10話

「ただいま、ナオくん」



靴を脱いで上がったところで、ナオくんに正面からぎゅっと抱き締められる。



「ナオくん……?」



「やっぱり……ゆづが他の男と話してるとこ見るのは、いい気がしない」



「えっ」



不機嫌そうな低い声に、私の体がびくっと強ばる。



「セクハラとかされなかった?」



壊れ物に触れるかのように私の髪をそっと撫でてくれるナオくん。



その優しい手つきに、ずっと緊張で気を張っていた私はやっと体の力が抜けた気がした。



「うん。大丈夫だよ」



「されたらすぐに俺に言えよ? ……ゆづに触れたヤツがいたら、その手へし折りに行くから」



……多分冗談なんかじゃなく、きっと本気だ。



でも、



「うん、ありがと」



ナオくんのその気持ちが嬉しくて、彼の背中に両腕を回す。



ぎゅっと強めに抱きつくと、ナオくんは私を抱き締める腕に更に力を込めた。



「食欲ないってメッセージは読んだけど、スープだけ作っといた。飲む?」



「うん、飲む。ナオくんから美味しそうな匂いがする」



すんすんと鼻を鳴らすと、ナオくんは私の体を離して苦笑する。



「いい匂いって言われたら嬉しいけど、美味しそうってのは何か微妙だな」



そんなこと言われても……本当に美味しそうな匂いなんだもん。

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