第2話

ナオくんの背後に見えるキッチンには、お弁当のおかずがまだお皿に乗せられた状態で置かれている。



「ナオくんのお弁当はまだ詰めてないの?」



そういえば、まかないが提供される職場で働いているナオくんが、自分でお弁当を持って行くこと自体がそもそも珍しい。



それが、今日に限ってお弁当持参だなんて。



「俺のは……ゆづの見送りをしてから後で適当に詰めようかなって」



ナオくんの視線が泳いでいて、私とは目が合わない。



――これは、ナオくんが嘘をついている時の目だ。



もしかして……本当はお弁当なんか必要ないのに、“ついで”を装って私のために作っただけなんじゃないのかな。



ナオくんなら、そういうこともしれっとしそうだ。



「ナオくん」



視線を逸らしたままの彼に、正面からぎゅっと抱きつく。



「!」



ナオくんは突然のことに驚きながらも、私の体に両腕を回してぎゅうっと強く抱き締め返してくれた。



ナオくんの温かい体温が心地いい。



「松野さんにいじめられたら、すぐに俺に言うんだぞ?」



そんなこと、本当は1ミリも思ってないくせに。

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