第56話
「……ねぇ。そろそろその声のかけ辛い暗い顔やめてくれない?」
授業が終わって学校から最寄りのバス停までの道を歩きながら、梨乃ちゃんはそう言うけど、
「声かけ辛いなら、無理して話しかけなくていいじゃん」
そっとしておいて欲しいのに、梨乃ちゃんはめげずに話しかけてくる。
「会いたいなら、素直に会いたいって言えば?」
「……」
私は返す言葉が見つからず、手にしていた横に細長いスーツケースのような入れ物の取っ手を、ぎゅっと強く握り締めた。
今日はバイトも休みなので、帰宅したら実技試験の練習をしようと、スライス包丁やパレットナイフ一式が入った重い包丁ケースを持ち帰ったのだ。
それが重いのか、それとも単に私の気分が重いだけなのか、バス停までの道のりがやたらと遠く感じる。
「結月が“ナオくんに会いたいよ〜”って一言連絡すれば、すぐに飛んできてくれると思うけど」
梨乃ちゃんは意地悪げに微笑みながら私を見る。
「絶対しない」
即答した私に、
「はいはい。じゃあさぁ、気分変えて、ちょっと新しい出会いでも探してみない?」
自分のスマホを操作して、梨乃ちゃんが自慢げに見せてくれたのは――
「……マッチングアプリ?」
ナオくんに片想いし続けている自分には無縁だと思っていたアプリだった。
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