第10話

「事務室に救急箱があるから、行こうか」



そして、そのまま舞の手を引いて移動しようとする。



「あっ、あの、大丈夫なので自分で――」



そう言いかけた時、



「どうした?」



不機嫌そうな声をかけられて、



「……」



嫌々後ろを振り返ると、



「……オーナー」



店の見回りが終わったらしい友季が立っていた。



「鈴原さんが、指切っちゃったみたいで」



相変わらず舞の手を掴んだままの山田に、



「山田さん、ドレの途中なんだろ? あとは俺が見るから、先にアップルパイ焼いてきちゃって」



口調は穏やかだが、目つきが鋭くなっている友季が、そんな指示を出した。



「……はい」



何か不満に思うことがあったのか、返事に一瞬の間があった山田は、ようやく舞の手を離した。



オーブン前に置かれている作業台に戻った彼の姿を見届けてから、



「皆、俺がいいって言うまでは、ここの作業台に近付かないでね」



血液が床に落ちていた場合、踏み広げてしまう可能性があるので、現場にそう声掛けをした友季は、



「鈴原、こっち」



友季が厨房に隣接している事務室に舞を手招きした。



「あの……先に現場の血の確認とか処理をしなくていいんですか?」



舞が慌てて訊ねると、



「手当てのが先」



友季は即答し、



「そのままの状態で現場うろつかれる方が迷惑」



ぶっきらぼうにそんな言葉を付け加えた。

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