第6話

「シェフ、その言い方は……」



上田が、友季をそっとたしなめようとしたが、



「どうせお前も、俺目当てでウチに入社したんだろ」



友季は目線と顎の先だけで舞をくいっと差した。



「……はい?」



舞は言われたことの意味が分からずに首を傾げた。



その態度と表情に苛立ちが出てしまっていることに、本人は気が付いていない。



「俺と付き合いたくて来たんだろうけど、俺にそんな気は全くないから。そんな半端な気持ちだけで入社して、すぐに辞められでもしたら、すげー迷惑なんだよ」



憧れの店に来ただけだというのに、この言われ様。



何と理不尽。



何と自信過剰。



何たる屈辱。



唇を噛み締めて必死に堪えていた舞であったが、



「だから入れるなら男にしてくれって――」



「お前の顔なんかどーでもいいんだよ! 私が好きなのはお前のお菓子だ、うぬれんなバカヤロー!」



舞の心の中の叫び声が、思い切り口をついて飛び出していた。



「……」



その直後、静かになったのは友季だけではない。



厨房で作業をしていた他のスタッフも全員、自分の作業を止めてこちらを凝視していた。



「あ……」



皆の視線に気付き、舞は自らの犯した失態に気が付いた。



「……今のって、声に出てましたか?」

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