第5話

舞は、勇気を振り絞って厨房の中に一歩踏み入った。



「お、おはようございます!」



「……んあ? 誰だ、お前」



裏口に一番近い場所に立っていた友季が気付き、舞を睨みつける。



(……テレビと表情カオが違う! 感じ悪い!!)



舞はそう思ったが、



「本日からこちらでお世話になります鈴原 舞です! よろしくお願いします!」



顔には出さずに元気良く頭を下げた。



その声に気が付いた女性スタッフの1人が、慌ててこちらにやってくる。



「鈴原さん! ごめんね、気付かなくて」



面接と実技試験の審査官だった上田うえだだ。



今いるメンバーの中で唯一、一番見知った顔を見た舞は、少しだけほっとした。



「上田さん、おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」



上田にも元気良く頭を下げる。



「えぇ。こちらこそ、よろしくね」



にっこりと優しく笑う上田に、



「上田さん……若い子入れるなら、男にしてって言ったよね」



露骨に嫌そうな顔をした友季が言い放った。



「なっ……!」



その言い草に、舞は思わずムッとする。



女性パティシエというのは、今の時代では珍しくはなくなってきているが、実際の現場では男女差別がまだ根深く残っているのも事実で。



舞が尊敬していたこのパティシエも、そういう古い考えのタイプなのかと、心底がっかりした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る