第17話

……違う。



彼女は望んでなんかいない。



彼女は、美姫は優しいから、俺のためを思っているだけなんだ。



そんな美姫を、俺が放っておけるわけがないだろう?



「……嫌だね」



俺がそう返事をすると、美姫は俺から目を逸らした。



「お願い、私と別れて……もう、朔ちゃんのことを覚えていられる自信がないの……」



震える声で、必死に訴える美姫。



でも、俺はその言葉が嘘であることを知っている。



“覚えていられる自信がない”のではなく、



もう既に俺のことを忘れ始めているんだ、と。



最近、美姫が朝、目覚めた時――



隣で寝ている俺を見た瞬間、恐怖で息を呑んでいるのを、俺は寝たフリをしながらも見守っていたのだから。



しばらく経ってから、俺だということを思い出してくれたみたいで、何もなかったかのように過ごしてはいたみたいだけど。



それが俺にとって、ショックじゃないと言うと嘘になってしまうけれど、そんなことは別に重要じゃない。



ただ、思い出すまでの間の時間が、日に日に長くなってきているのが心配だった。

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