第28話

「……珍しい。どういう風の吹き回しかな?」



姫花の蒼い瞳が、驚きで大きく見開かれた。



その綺麗な瞳に、希美は頼斗のことはそっちのけで見惚れてしまう。



「姫ちゃんって本当に綺麗で可愛いよね」



思わず、そんなことを口走っていた。



もう頼斗のことなど、希美の意識からは完全に離れていた。



「え? 私?」



姫花は、視線を女子の塊から希美の方へと移した。



「私、姫ちゃんの顔、本当に好き」



「え? あ、ありがとう……?」



姫花は、少し困ったような顔で笑った。



「……もう、モデル引き受けてくれないんだよね?」



希美は懇願するように姫花の顔を覗き込んだが、



「ごめんね」



姫花は申し訳なさそうに俯いた。



希美は家庭科部に所属しているのだが、この家庭科部は四季に合わせて年に4回、ファッションショーを開催している。



そのショーはかなり本格的なことで有名で、過去の部員で卒業していった人の中にはデザイナーの道に進んだ者も多いという。



そのショーのモデルを、昨年の夏は姫花が引き受けてくれて、ショー自体は大盛り上がりを見せたのだが。



元々人前に立つことが苦手な姫花は、もう目立つことはしたくないと、それ以降の希美の依頼を全て断っていた。

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