第5話

「姫花、そろそろ自分の教室に戻れよ」



希美の隣の席に座っていた頼斗が、すぐ近くにいた姫花へと声をかけた。



姫花のクラスは、隣の2組だ。



「だって、梅ちゃん1人に出来ないし……」



姫花は困った顔をした。



希美が、姫花の制服の袖を掴んで離さないのだ。



「梅本。俺が隣の席なんだから、寂しくないだろ?」



頼斗は、希美とは姫花を通じてそこそこ仲がいいつもりだった。



頼斗の台詞に、



「いいなぁ……」



「私も、桐生君にあんなこと言われた〜い」



他の女子たちがキャーキャーと騒いだ。



それが、普通の女子の反応のはずなのだが、



「……」



希美は何故だかムスッとした。



「姫ちゃんがいい」



「……」



頼斗が付き合ってもいない女子から、突き放すような態度を取られたのは、希美が初めてだった。



「姫ちゃんの方が、桐生君とは比べ物にならないくらい綺麗な顔してるもん」



「……え? 顔の話!?」



今の話とどう関係あるのかと、頼斗は面食らった。



第一、誰かと顔を比べられて負けたことなど、若い頃の父親くらいしかなかったのに。



頼斗にとって、父は目標だ。



父は容姿に恵まれ、若い頃はモデル業もこなしていて、現在はこの街で一番大きな総合病院の眼科医をしている。



今も昔も、女性にはかなりモテるのに――

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