第2話 メシ友の彼女

Tabernaタベルナ集合』



半年程前に、友人の店で知り合った遠山美鳥にメッセージアプリを使って連絡する。


今日は友人の店に行く事が出来そうなので、久しぶりに彼女を誘う事が出来た。


遠山さんと食事をする。


実は、彼女の食事をする姿を見るのが好きだった。


姿勢よく座り、少しゆっくり食事を口にする。

その仕草が、見ていて好ましく感じた。


『お腹空いた〜』と、席に着きながら言う彼女の屈託のない笑顔も中々に可愛い。


この前は『野菜と鶏肉の天ぷら』がランチで、自分なら一口で食べそうな具材を何口かに分けて食べていた。


遠山さんの苦手な食材を見抜く。


そんな理由で会っていたが、それは次第に理由を変えつつあった。




◇◇◇◇◇



「...分かったよ。」


遠野さんがそう言った。


それは、タベルナでのランチが食べ終わった時の事だ。


今日のランチは青椒肉絲定食。


新鮮なピーマンがふんだんに使われた一品だった。


「...何がですか?」


私は“ご馳走様“と手を合わせながら、そう言った遠野さんを見た。


「嫌いなんだ...、ミドリ...」


その言葉に、ドクンッと胸が痛んだ。


ミドリが嫌い。


突然言われた言葉は、『美鳥が嫌い』だと言われた気がした。


「...どう...して...?」


少し声が震えた。


少なからず、遠野さんと私は仲良くしていたつもりだった。


そして私は、遠野さんとの食事をするのが好きだった。


大柄で、偏食な彼。


でも、好きな食事を口にするその姿が好きだった。


大きな口にどんどん、吸い込まれるように消えていく食事。


頬張って食べる訳ではなく、しっかりお行儀よく食べているのにも関わらず、美味しそうに食べるその仕草が好きだった。


なのに、何故?


「...嫌いなの...食べてる時、咀嚼するのが少しゆっくりになるよな?」


遠野さんが微笑みながら、肘を付いて私の顔を覗き込む。


「...え?」


「...だから、嫌いな食材の話。」


「...嫌いな...食材...?」


「そうだって。ミドリ。」


遠野さんは食べ終わったお皿を指さす。


「ピーマン。緑色の野菜だ。」


「...あ、...バレちゃいました?」


動揺した事を必死に隠しながら、私は遠野さんの言葉に答える。


しかし、思った以上に私の動揺は顔に出ていたらしい。


「...ん?...そんなにバレたくなかった?」


遠野さんは、不思議そうに聞いてくる。


「...いえ、そういう訳ではなくって...」


何となく、たった今自覚した、ふんわりとした恋心を見抜かれたくない。


俯いて首を振る。


しかしそれが、むしろ違和感を抱かせたようだ。


「...何か変な事言ったかな?」


会話を逸らすことも出来ず、私は観念する。


「...ミドリが...、き...嫌いだって...言うから...」


躊躇いながら言う私を、少し驚いたように遠野さんは見る。


そんな遠野さんの視線が痛くて、私は顔が赤くなっていく。


よくよく考えれば『何を言っているんだか』だ。


苦手な食べ物の話をしていただけじゃないか。


なのに、『美鳥ミドリ』が嫌いだなんて。


「...ははっ、...実を言うと...『ミドリ』は好きなんだ。」


動揺している私に、遠野さんは言う。


食べ物の話だよね?


私は遠野さんをジッと見る。

でも遠野さんはアルカイックスマイルを浮かべ、意図が読めない。


「...遠野さん、野菜...嫌いじゃないですか」


正解が分からない私は、とりあえず『食べ物』の話をしてみる。


「...そうだね。...とりあえず、今日の夜...空いてる?」


今日は週末、金曜日。

残業の予定は無い。


「...はい。特に...予定は無いですけど...」


「じゃあ、たまには『タベルナ』以外に浮気してメシ、食べに行こうか。」


遠野さんの言葉に、カウンター内にいたオーナーが反応する。


フライパンを振りながら『そんな事言ってると、次からは野菜炒めしか出さねぇぞ?』と笑っている。


「『ミドリ』が美味しく食べれるって見せてあげるよ」


子供が何かを企んでるような、楽しそうな笑顔の遠野さんはそう言った。

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