第4話

場所は黒崎家の父親の書斎。

両壁の本棚にはぎっしりと専門書が敷き詰められていて、デスクの上にはミニスタンドライト、ペン立て、分厚いファイルが三つ積み重なっている。


古びた木製デスクに背中を向けている沙耶香の父親は窓の外を眺めながら、扉付近で待機している執事に向けて背中越しに言った。




「そうか、まだ見つからないのか……」


「申し訳ございません。下の者を駆使して探してるのですが、あらゆる手段を使っても情報に限りがございまして、これ以上の捜索が可能かどうか」



「うむ。こんなに長い歳月をかけても、なかなか見つからないものだな。少し甘くみていたようだ」


「旦那様……」



「いや、私はまだ諦めていない。絶対に会わなければならない。金ならいくらでも積むから引き続き捜索を頼む」


「はい、かしこまりました」




執事は頭を下げてから扉を締める。父親はその音を聞き取ると、窓から差し込む黄金色の日差しを浴びながら呟いた。




「あの日さえ訪れなければ、心に負債を背負う事はなかったのに」




父親は長年経っても忘れられない過去を振り返りながら、左手で縦五センチに伸びている首の傷跡を軽く撫でた。ゆっくりと伏せた瞼の裏には過去の自分が映し出されている。

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