第3話

紫陽花が日々衣装替えをして街の景色を彩る六月中旬。


颯斗は勤務先のコンビニの休憩時間が終わってバックヤードから出てくると、店長は外掃除に行くように伝えた。

早速ホウキとチリトリを持って外に出ると。




「うああぁあん……っう……うっ……」




自動ドアの左前方に止まっているベビーカーに乗った二歳くらいの女の子が、全身をバタバタさせながら泣きわめいてた。

すかさず駆け寄って、背後から「どうしたんですか?」と母親に聞く。




「実はシャボン玉を手に持たせていたら、目を離した隙にパッケージから出して蓋を開けて中身をこぼしてしまって……」




母親はそう言いしゅんとした顔を見せる。

颯斗はすかさずベビーカー正面にしゃがんで女の子に変顔を向けた。




「ほ~ら、泣かないの! たこ焼き~、梅干し~」




顔を七変化させながら、ほっぺたを膨らまして指を円にして頬をつまんだり、顎にシワを寄せたり。

多種多様な変顔パターンに女の子の泣き声が引いていき瞬く間に笑顔に。


母親は颯斗の腕前に思わず言った。




「凄い。こんなに早く泣き止むなんて……」


「実は俺、五人兄妹の長男で。だから、子供のあやし方が人より少しだけ得意なんです」



「そうなんですね。ありがとうございます。助かりました」




母親は頭を下げて場を離れると、颯斗は左手を振りながら見送った。

空に向けて伸びている手の甲には縦長の傷跡。


そんな様子を車道に路駐している黒いベンツの後部座席から一部始終見ていた沙耶香さやかは、瞳を潤ませながら呟いた。




「ようやく見つけた。……私の王子様」

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