夢を叶えた姿
第38話
「もう、意地悪っ。私に気付いてたなら、すぐに自分が皆川くん本人だって、言ってくれれば良かったのに」
「俺は紗南が大事にしてくれていた約束を守りたかったから、仕事の予定を前に切り詰めたりセーブして、紗南と約束通りに出会う為に大雪の日を待つ事にしたんだ。いま思えば、大雪が降るかどうかもわからなかったのにな。」
「だから、セイくんと暫く会えなかったんだ。会えなかった理由が、いまようやくわかった。」
「紗南がいつ俺に気付くんだろうって、何度か意地悪をしちゃったけどな」
「あーっ。そう言えば、彼のどんなところが好きかって聞かれた事があった!」
「あはは、バレたか」
「もうっ!ヒドイよ、セイくん」
大好きな彼の声と会話のキャッチボールを繰り返していたら、涙が乾いていくうちに自然と笑顔が生まれた。
だから、不思議と気持ちが前向きになった私は、ポケットから出した星型の飴を口に含み、最初で最後の勇気を出した。
「セイくん…。ううん、皆川くん。今すぐに会いたいから、そっち側のカーテン開けてもいい?」
「…もう、いいよ」
数ヶ月間。
ずっと部屋の奥で閉ざされたカーテンが開いた先には。
私と同じく涙を流していたと思われる彼が、ベッドに腰をかけて私の方を向き、軽く開いた膝の上に手を置いていた。
目を赤くした彼の二重まぶたの目の下には、泣きぼくろが二つ。
久しぶりに目にするその懐かしい印は、間違いなく皆川くんだった。
私がずっとずっと会いたがっていた皆川くんが。
いまそこにいる。
大雪の日に私に会う為に、準備をしていてくれた事を知った。
足元に視線を落とすと、★マークの書かれた上履きを足に通してる。
六年ぶりに再会した彼は、あの時よりもずっとカッコよくなっていて。
普段テレビを見ない私までもが、何処か街中のポスターで「皆川くんに似てるなぁ」なんて思って見ていた事を記憶に巡らせた。
彼はあれから自分の夢を実現させて、KGKというグループ名で活動している人気歌手として、大いなる成功を収めていた。
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