一星のセイ

第37話

「うそっ…。セイくんって、あの声楽教室で一緒だった皆川くんなの?」


「あぁ。俺だよ。だいぶ前、紗南に『いっせいのせい』って言ったのに、紗南は全然俺に気付かないから」



「あっ、たしかあの時そう言ってたね。いっせーのせっじゃなくて、一星のセイだったんだね。声変わりしていたから、皆川くん本人だって気付かなかったよ」


「うん。今日まで内緒にしててごめん。俺は紗南が過去の話をした時にすぐに気付いたよ。俺との思い出をずっと大事にしててくれて、ありがとな」




進み行く会話と共に同一人物だと言う実感が湧いていくと、どうしようもないくらい胸が熱くなり、涙は更に勢いを増して止まらなくなった。





会いたいと思っても、なかなか会えなかった。


ずっと、彼の存在に気付かなかった。


こうやって彼に正体を明かしてもらうまで、こんなに近くに居たのに気付かなかった。




でも、私達ようやく会えたね。




涙を拭っていたハンカチは、指に湿った感触が伝わるくらい涙が染み込んだ。



彼に渡すはずだった星型の飴は、ギュッと繋いだ手と手の隙間からすり抜けて、床へと静かに転がり落ちた。

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