行かないで
第41話
翔の母親は車のエンジンをかけてワイパーのスイッチを入れる。
車のエンジン音は、まるでバケツをひっくり返したような豪雨によってかき消されていく。
翔が後部座席の窓を開けて顔を覗かせた瞬間、車は発車。
すかさず身を乗り出しながら愛里紗と目線を合わせると、最後の力を振り絞って大声で叫んだ。
「ありさああぁぁ…………!」
翔の悲鳴混じりの泣き叫ぶ声が、神社全体を包み込む。
一方の愛里紗は、翔の声がもう二度と聞けなくなると思った瞬間、半ば諦めかかっていた気持ちが再燃した。
「谷崎くんっ!嫌だっ、待って………」
愛里紗は翔がいなくなる恐怖がこみ上げてくると、手にしている傘を投げ捨てた。
イルカのストラップを左手に握りしめて溢れる涙を滴らせながら、暗闇に向かっていく車の後を追いかける。
「待って!行かないで。谷崎くんっ……谷崎くんっ………」
だめ、行かないで。
お願いだから何処にも行かないで…。
私を街に残したまま遠い所になんて行かないでよ…………。
一人ぼっちになんてしないで。
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