ありがたい存在

第28話

ボールを取りに来た女子と咲は、倒れている愛里紗の安否を確認する為に上から顔を覗き込んだ。




「あたたっ…。う、うん。大丈夫…」




目を開けると二つの顔が心配している。


ボールが当たった直後は一瞬意識を失いかけたけど、何とか無事だった。

頭を抑えてゆっくりと起き上がる。




「保健室に行かないと」


「そこまでじゃないから、大丈夫」


「一人で立てる?」



「うん、平気だよ」


「頭痛い?」



「ちょっとズキズキする」




今日は何て日なの。

はぁ…。








その後も咲はずっと心配してくれていて、楽しみにしていた彼とのデートをキャンセルして私を家まで送ってくれた。




「今日のデートをあれだけ楽しみにしていたのに……、ごめん」


「愛里紗の事も大好きだって言ったでしょ。忘れちゃったの?」



「彼、怒ってないかな?」


「うん、大丈夫。気にしないで」




咲は優しい。


自分の事を二の次にして私の身を案じてくれる。

電車に乗ってる最中も『大丈夫?』とか『まだ痛む?』とか、心配の言葉を何度も届けてくれた。


朝からデートを楽しみにしていた事を知っている分、余計申し訳なく思っている。




だから、咲の悪い噂を立てている一組の子の気が知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る