CASE2

光浦亮 AV男優




淡い高校時代。僕は陰キャだった。


光浦亮39歳。僕はしつけの厳しい家で育った。両親とも僕を医者にしたかったらしい。


高校時代陰キャで、友達も少なくアニメが好きだった。そして高校を卒業して、僕は変わった。もう誰にも暗いなんて言わせない。


そして風俗に行って童貞も捨てた。離れて暮らす両親が見たらなんて言うかわからないけど、親の援助は受けないかわりに好きな道を進むと決めた。今までの自分を変えるべく、筋トレ、日焼けしたら街でスカウトされ、


話を訊くとそれはAV男優だった。


まだ時代がネットもそんなに普及してない時代に僕はAV男優になった。最初の頃は、良く監督が使ってくれて、男子の中では有名になった、お金もそこそこ貯まった。そして気づいたら39歳になっていた。インターネットが普及してから俺も、業界も不況になった。


それでも何とか仕事はある。この業界女優が1000人以上いるのに対して男優の数は70~80人程度しかいないのだ。なのに仕事をもらえない男優がいる。僕らの時代が活躍しすぎたのかもしれない。




そしてこの日現場にいた。


今日は新人の女の子の撮影で時間を押している。脇役の子たちもいる。この調子だと深夜になってもおかしくない、監督が指示を出す。が、しかし指示役に使われるのが若い男優だ、僕はさっきからすることがない。僕は業界に入って15年が経つ。もう年齢的にもベテランの領域に這入ると思う。僕から監督に、


「使って下さい」


と言える監督は少なくなった。


古い監督も辞めていってしまったのだ。


時刻は0時を回っていた。僕は準備していたら、若い監督に


「光浦さん今日もう出番ないんで上がりで」


僕はもうどうでもよかった。もう使ってくれなくなってきている自分が情けなかった。


いつも心のどこかで「引退」という言葉が頭を過る。僕はアディダスの上下セットに着替えボストンバックを持って「お疲れ様でした」


と言ってスタジオを退出した。




夜道を歩く。


スタジオは駅から離れたところにだいたいある。駅まで道なりに歩いていると、駅の近くの公園で音楽を聴きながらタバコを吸っている女優の南さんがいた。僕はそんな彼女に話しかけた、


「こんな所で何しているんですか?」


「監督に、今日出番ないから帰っていいよって言われたから」


「それ俺も一緒」


「男優さんが言われるのはつらいよね」


「もう慣れた。へへ」


「南さん腹減ってません?」


「空いた~」


「焼き肉行きません?」


「いいね!」


僕らはタクシーを拾って焼き肉屋に着いた。


タクシーの運転手さんが女性の方で優しい人だった。お店に入ると肉をじゃんじゃん頼んで、ビールも注文した。


「ほら、焼けたよ。食べちゃって」」


焼き肉屋で僕が学生時代オタクだったこと、風俗で童貞捨てたことなどを。何故だか南さんに告白した。


南さんは笑ってくれた。


南さんは脇役女優さんで、何度か現場で会っている。脇役女優の南さんきっと苦労されていることだろう。




「わたし引退する!」




僕はビールを噴き出しそうになる。


焼いている肉の音がうるさく感じた、


「それって今日?」


「うん。もう脇役も疲れたし、もう24だからね」普通のOLになって、普通の毎日をおくる」


僕が引退を考えている。ということが言えなくなってしまった。


僕らは焼き肉屋をでて、近くの公園に来た。


ブランコに乗る南さん。


高く高く上がっていく。僕はその光景を笑顔でみていた。南さんがブランコを下りたタイミングで、南さんに




「南さん、長い間お疲れ様でした!」




「やめてよ泣いちゃうじゃん」




「それと世の中の男子に夢をありがとうございました!」




ハンカチ姿の南さん。


「私、帰るね」




帰って行く南さんの後ろ姿は「普通」の女の子に見えた。

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