駐屯地というのは

リラックス夢土

第1話 駐屯地というのは

 

「父さん、昔自衛隊にいた時になにか怖い噂話とかなかった?」


 晩酌をしている父さんにそう切り出した。


「ん? どうしたんだ和人」


「最近、怪談とかにハマっていてさ。なにかそういうの知らない?」


 うちの中学で、ネットで拾った怪談話をしたらみんなにウケて、最近じゃちょっとした怪談師になっている僕。

 だからネット以外でもねたを集めたくなってきたんだ。


「そうだな~。俺は直接は遭遇はしていないけど、そういう噂話はいろいろと聞いたな」


 そう言ってビールを一口飲む。

 僕は覚えていないけど、父さんは昔自衛隊にいた。

 そんな父さんならネットに公表されていない怪談話とか知っているかもしれない。


「あるの?」


「ああ、あるよ。話してやろうか?」


「うん、話してよ」


「わかった」


 またビールを一口。


「自衛隊の駐屯地なんてのは、どこも心霊スポットだよ。当然俺のいた所もな。なにしろ旧軍の頃からあるんだ。それ以外にも戦後に一時期米軍が使っていたりもしてな」


 いろいろあるんだな、駐屯地って。


「俺の中隊が使っていた隊舎には、よく金縛りにあう部屋があった。俺はそこに居住したことは無いが、先輩・同期・後輩が時折そういう目に合っていた。まあ、時期に慣れちゃったから本人たちもすぐに気にしなくなっていた」


「慣れって恐いね~」


「ハハハ、俺もそう思ったよ。中隊でも上の陸曹の人が知り合いの霊能者に相談したところ、そこには霊道があるって言われたらしいな」


「霊道っ!?」


 たしか、浮遊霊が通ったりする場所だったよな。

 そんなのがあったのか。


「ああ、そうだよ。でもそれだけじゃない。俺の先輩の人は夜中にトイレに行って戻る時、廊下の先を誰か歩いていたらしい」


「もしかして幽霊?」


 父さんは頷いた。


「その人は当直が見回りしているのかと思ってよく見たら、今はほとんど使われていないOD作業服らしきものを着ていて、身体が透けていたらしい」


「ええ~~、あからさまに幽霊だよね」


「ああ、そうだって言ってたよ。しかもその人の居室の前に入ろうとしていたのか立ち止まったみたいだ」


「部屋に入ったの?」


「いや、その幽霊は入れなくて諦めて廊下の先に消えて行ったそうだ」


「なんで入れなかったのかな?」


 鍵がかかっていたとかかな?


「信じられないかもだけど、その人はかなりの変わり者で多趣味な人でな、その中にオカルトもあって『呪術』も修行していたんだ。よくそういった本を読んでいたよ」


「あ……それじゃ、なにか結界とか?」


「ああ、そんなこと言っていたな。だから入れなかったとか。本当かどうかはわからないけどな」


「その人も霊道から来たのかな?」


「さあな、他にも駐屯地の食堂。あそこはベトナム戦争の頃に引き上げて来た戦死者の遺体を一時保管するホルマリンプールだったらしいぞ」


「えっ、あの食堂!?」


 僕も父さんのいた駐屯地にはイベントの時に入ったことが何度かあるけど、あそこにあった食堂がそんなものだったなんて……。


「俺があの連隊に配属になって初めてあそこの食堂に入ったときには、なんか違和感を感じたな。かといって、何かを見たことは無いけどな」


「よくそんなところで飯食えたよね」


「ハハハ、腹減っているから気にもしないよ」


 父さんはチーズをかじってビールを一口。


「その呪術ができる先輩は、そういうの何とかしようとかしなかったの?」


「ああ、その人はそう言うの見ても面白いの見たな~くらいにしか思わなかったそうだ。自分に害がないから、そういったものも放置しているって言っていたな」


「漫画とかラノベみたいに退治したりしないんだ……」


 てっきり除霊とかするんだと思っていたけど、自分に被害ないと動かないって……ただ面倒だったんじゃないかな。


「そんな面倒なことはしたくないとも言っていたな~。そんなことする暇があるなら他の趣味をやっている方が面白いからだろうな」


 あーやっぱりそうか。

 除霊が仕事じゃないし、面倒だからやりたくなかったんだ……。


「でも、そうなると今でもあの駐屯地にはそういうのがうろついているのかな?」


「いるかもしれないな。そういえば、今月夏祭りやるだろ? 行ってみたら、なにか見れるかもしれないぞ」


 それは面白そうだな。

 誰か誘って行ってみよう。


 それからまたいくつかの噂話を聴かせてもらった。

 父さんのいた駐屯地だけじゃなく、他の駐屯地のことも。



 駐屯地夏祭り当日。

 僕は隣りに住む一歳上の幼馴染を誘うことにした。

 友達と行くのもいいけど、女の子と行ってみたいというのもあったから誘ってみたら了承してくれた。


「紫ちゃん、左側に見える建物。あれが父さんのいた隊舎だよ」


「へ~あそこにいたんだね」


 僕達は正門から入ると紫ちゃんに説明をする。

 これから父さんから聞いた「駐屯地の幽霊の噂話」をしてあげるつもりだ。


「ねえ、まずは飲み物買わない?」


「そうだね、隊舎前の出店で買おうか」


 僕達はそこへ足を進める。

 

 夏祭りはいろんな部隊の人たちが出店をやっていて、いろんな食べ物や自衛隊グッズを売っている。

 そこでジュースを買う為に並ぶ。


 その時にその隊舎を見上げてみる。


 ほとんどの部屋には照明はついていない。


 

 だけど、そのうちの一つの部屋。




 誰かと目が合ったような気がした。


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