第5話

「玲央くんって、彼女いるのかな?」


 窓際の向こう側を覗いている遥の視線の先には、隣のクラスの男子たちがジャージ姿で体育の授業を待っている様子。

 その中で、よく見知った背格好の男子がサッカーボールでふざけあっていた。

 あれは、玲央だ。


「なんで?」

「え?」

「玲央に彼女がいるのかな? って、なんで?」

「あ、ほら。萌奈、玲央くんと幼馴染って言ってたでしょ? だから、知ってるかなあ? って」


 先日の玲央の言葉を思い出す。

 

『クラスのやつから、お前に聞いてくれって言われてて』


 ああ、そういうことか、と一人納得して。


「玲央のこと好きな子に、聞いてほしいって言われてたり?」


 微笑んだ私の方を見ることなく、遥はカーテンの向こう側をじっと見つめていて。

 その視線をたどったら、玲央がいた。

 玲央もまた遥をじっと見つめていた。


「ねえ、遥、もしかして」

「ち、違うの! ちょっと、ね? いいなあって。あ、ほんのちょっとだから。好きとかそんなんじゃなくって」


 カーテンに顔を埋めてしまった遥の耳たぶは、まるでピンクの貝殻のイヤリングでも付けているみたいな色をしていた。

 遥の体温が上がっていること、それが全てを表している。

 ギリッと下唇をかみしめて、心に浮かび上がったモヤモヤの意味を探る。

 初めて感じる、この気持ちをなんと呼べばしっくりくるのか?

 ……、ああ、もしかしたら?

 そうか、これは、「嫉妬」だ。


「あの、ね、遥……」


 真剣な顔をした私の話に耳を傾けた遥。

 何度も何度も頷いて、それから私をギュッと抱きしめた。

 泣きながら「大丈夫だよ」って笑ってくれたから。

 私も何度も「ごめんね」って。

 ――泣き真似をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る