第2話
「遠雷って、夏を告げる音に聞こえない?」
「……、すみません。えんらい、とは?」
「おおーっと? マジか」
私の質問に、
ちょうどその時、遠くから大きな動物のお腹を鳴らしたような、ゴロゴロゴロゴロという雷の音が聞こえてきた。
「これ?」
「そう、これ」
音を示すように首をかしげた私に、牧くんはその通りとうなずいた。
「もうすぐ、雨降っちゃうかな」
「どうだろ? 三原が、とっとと写してくれたら、オレも帰れるんだけど」
私の前の席に後ろ向きに座り、まだ半分真っ白な私のノートを覗き込んで牧くんはからかうように笑う。
牧
放課後の教室にそんな男の子と二人きり、だというのに。
ドキドキとか、ハラハラとか、そんな展開が一切ないのは悲しい。
ある意味で、ハラハラはあった。
だって、私は今日、クラスいちの悲劇のヒロインだったもの。
先週の火曜日から今日までの間に、提出するはずの宿題をやってこなかった私を見て、先生がこめかみをピクピクさせて冷たく言い放った。
「三原
なんて非情な通告だろう。
いや、先生、提出期限もうすぐとか言ってくださいよ!
忘れてた自分が一番悪いんだけどさ?
皆に助けを求めるも、部活だ、習い事だ、塾だのと「じゃあね、頑張れ、しょかたん」と笑って去っていく。
ガランとした教室を見回すと残っていたのは、牧くんのみだった。
目が合った瞬間、彼は自分が逃げ遅れたことに気づき、マズイものに見つかったというような顔をして、帰り支度をはじめる。
そんな牧くんの前に、私はあわてて立ちはだかった。
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