第3話

「あの……、牧くんのノート、写させてくれないかな?」

「オレの?」

「そう、牧くんの」

「わかんないとこ教えるのはいいけど、丸写しはダメじゃない?」

「全部わかんないんだもん、そんなの教えてもらってたら、一週間かかっちゃう! このまんまじゃ学校に泊まることになるの、お願い牧くん! 一生のお願い!」


 私の必死すぎる頼みごとに、目を丸くした後、クックと肩を震わせて笑い始めた牧くんが、自分のノートを貸してくれる。

 私は、あわててそれを書き写していく。

 時々、間違えて書くのはわざとだ。

 だって、牧くんのはパーフェクトだから、全部そのままは先生にバレちゃう、絶対にバレる。


「牧くん、本当にありがとね! 牧くんがいなかったら、私ヤバイことになってた」

「いいよ。一回、貸しにしとくし」

「え?」

「今度は三原がオレの宿題やってね?」

「へっ?」


 とんでもない引き攣り顔を見せてしまった私に牧くんは笑い出す。

 目を細めて声を殺して笑う牧くんを、今日初めて知る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る