完結後SS
第49話
■■33ページの後のこと
北の最果て漆黒の魔王城。その内装はほとんど黒、そしてワインレッドが占めている。
ところどころで輝く金の装飾品がいくらか目を疲れさせる。
「あーつっかれた!」
伸びをするリッタは白いシルクのネグリジェに身を包んでいる。胸元のリボンをキュッと結ぶデザインがお気に入りだ。
部屋もメープルを基調としている穏やかな色合いで唯一リッタにとってありのままの自分をさらけ出せる場所だ。
そして侍女以外の誰にも見せられない。
この部屋もネグリジェやナイティも。
「ウィー、きみの贈り主は元気かなぁ?」
うさぎのウィーは布と綿で出来ているから当然黙っている。しかしリッタは続ける。
「来るなって言ったけど、本当に来なくなったね。……いや、来なくて良いんだけど。どんな顔で会えばいいかだってわからないし。」
リッタは誰にともなく言い訳をしていた。
ふわふわのウィーは目も毛色もウィードに似ている。
よくこんなに丁度いいものが店にあったと感心するほどに。
「ウィード、大きな怪我とかはしてないよね。」
二人で街に出掛けた日を思い出していた。そしてふと過ぎるのは、別れた後のこと。
アンジュ。美しい高位魔法使い。
屈託なく笑って、あの大きなやさしい手で触れて、浅海の瞳で見つめて
涙がじわりと浮かんだ。
180年生きていて、こんな気持ちは初めてだった。
会いたくないのに会いたいなんて妙な感情もそうだ。
説明のしようがないけれど、不快で仕方がない。
ウィーを抱いたまま、ついでにねこのロロとひつじのシフルも抱きしめる。
そして数秒の後、リッタは規則正しい寝息を立て始めた。
リッタのミルクティーのような柔らかい髪を男の節ばった手が流れるように撫でた。
遠浅の海のようなエメラルドグリーンが愛おしいとばかりに細められる。
ぬいぐるみをぎゅっと抱き締めていたが、寝返りを打ってコロコロとぬいぐるみから離れた。
白い胸元の蝶結びは解けていて、そこから覗くラベンダー色の胸は谷間が刻まれている。
白く清らかなネグリジェに包まれた淫らな身体は倒錯的だ。
解けたリボンにいけない事をしている気分にさせられる。
魔術が使えないようになっている部屋を魔術でこじ開けて入っている時点でいけないことだが、倫理観が緩い勇者には些末のことだった。
強く吸ったら痕が残るんだっけ。
あぁ。いつか皮膚病みたいに見えるほど付けてみたいな。
ごめんね、リッタ様。
こんな気持ちで。こんな事して。
ウィードはリッタの頬に口付けをして、解けていたリボンを結び直してやる。
そうしていつもどおり全ての痕跡を消すと同時に闇に溶けるかのように転移して帰った。
END.
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