第47話
「ん…。リッタ様、おはよう。」
「こら、やめろ…ふふ。」
もぞもぞとリッタの胸に顔を埋めるようとする。髪の毛がふわふわと胸に顎に当たってくすぐったい。
もう自分より強いかもしれない男が、牙も爪もしまい込んでじゃれつく。悪い気はしなかった。
二人が二人でいる道を選ぶなら、課題は山積だろう。
でもこの男は飄々としながら乗り越えて見せるだろうし、私だって立ち尽くして無様に項垂れてやるつもりもない。
そんなふうにリッタは思う。
他の魔族の雄とは経験したことのない甘い時間に酔っている訳ではない。
『俺が不老不死になって、あなたとの垣根を取り払うから……だから、結婚……。』
明け方どちらともなく目を覚ましたときにウィードは言った。
人間が不老不死になる魔術。
そんなものは存在しない。
人間の男と結ばれたがった魔族の雌の父親が人間の男に課した架空の魔術だ。
架空の魔術だと知っているのはごく一部の魔族だけだ。
あまりにも出来が良いせいで架空のものとは気付かれず、そもそも人間向けなので魔族もその真偽に興味は持たない。
『あんなもの眉唾だ。』
『……そっかぁ。……じゃあ、俺が…開発すれば………』
ウィードが天寿を全うして私を遺しても良い。
美しい浅海の瞳が永遠に閉じるまで、私を映してくれるなら。
でもできるなら、たくさんの思い出を作りたい。
私が独りになっても、思い出して淋しさなんて忘れてしまうほど。
そう思うくらいは許されるだろう。
リッタはそんなふうに考えていた。
「ウィード、結婚の申し出を謹んでお受けしたい。」
驚きに満ち溢れたエメラルドグリーンが2つ、幸せそうに微笑むリッタを映した。
END.
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