第35話

「ずっとずっと前、…私が幼稚園に入る前

ママからお金もらって一緒にお菓子買いに行ったんです。私がわがまま言って高いお菓子を欲しがったら、自分の分を諦めて買ってくれた事がありました。


最近なんか、kobitonって置物があるんですけど、本当は姉はピンクが欲しかったのに、一個しか無かったから私に譲って、自分は次の休みに買いに行って。しかも被っちゃうとか変に遠慮して水色にしたんです。」


一気にそう言うと、コーラを飲み、ぷはっと息をした。



「姉のそういう、自己犠牲みたいな気遣いが息苦しいっていうか、ちょっとうっとおしいですよね?」


じっと、莉久ちゃんと同じフォルムの目が俺を見つめている。


そんな風に思う程俺たちの距離感は近くないし、同調したら完全アウトだろこれ。



「でもお姉さんが大好きそうに見えます。」


「…どう思われても別に。松尾さんは姉の友達ですし。」


拗ねたような口調になった菜津ちゃんは、なんだか等身大の女の子に戻った気がした。



「友達として、姉を宜しくお願いします。」



あれは…牽制だったんだよなぁ。

家への帰り道、菜津ちゃんの言葉を思い出していた。


ごめんね、菜津ちゃん。

回れ右なんてしてあげられない。

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