18話
快先輩は大酒飲みな人で、酔っ払うと直ぐに泣く。
他のバンドの後輩のドラマーが、前に言ってた。
快先輩はドラムについて、それはもう熱く語ったあと
お前ら若いのに頑張ってるな、すげーよ。
自慢の後輩だ。これからも可愛がるから。
音楽に情熱を燃やし続けるんだぞ。
と言ったあと泣きまくってたらしい。
後輩は対応が大変だったろうな。そりゃあもう気を遣うだろうし。
でも、快先輩の涙脆さは嫌いじゃないよ。
先輩は喜怒哀楽が激しい。というかはっきり言ってしまえば、沸点が低い。
スタジオでレコーディングの時、直ぐに熱くなってしまうんだ。もうその熱でカップ麺のお湯沸かせるだろってくらいに。
だから、いつも僕が落ち着かせてた。
でも、不思議と嫌いになれなくて。
先輩は才能があるけど、それに胡座をかくことなく、血を吐く程の努力をしている。昔も、今だってそう。
ドラムの腕は確かなもので、沢山の後輩が慕ってる。面倒見も凄く良い人だから。
それに対してギターの康太はおっとりしてる。幼なじみだけど、怒ってるのなんか滅多に見たことない。
というか、1度たりともない。
康太は自分で、許容範囲が人より少し広いだけだよって言ってた。それにオレの代わりに快先輩が怒ってくれるから、怒る必要がないよとも。
快先輩の奥さんの惚気話を20、30分くらい聞かされてる。本当に奥さん大好きだよな、話を聞いてる限りだと凄く仲良しだ。
それに話をする時の先輩の顔が本当に、家族大好きって感じで優しく甘い表情するんだ。
めちゃくちゃ幸せなんだろうなって、羨ましい。
再びインターホンが鳴り、康太だと分かった。
相変わらずだな、ほっそい身体。ギター弾けるのかなそんなんでって感じ。
ミディアムでツイストパーマがかかってるブロンズカラーの髪も全く変わらない。
「久しぶりだね、って2ヶ月くらい前に会ったよね。あっ、快先輩、先に着いてたんすね。待たせてしまい、申し訳ないです」
「いいんだよ、俺さっき来たとこだから。気にすんな」
「あざす。上がって良い?優大」
「いいぜ!まあ、俺ん家じゃねぇけどな!」
そう言ってまた、快先輩が笑った。それにつられて康太もゲラゲラ笑ってる。
元気そうで良かった。康太、もうちょい飯を食わないと駄目だな。
いつも言ってるんだけどな。飯ちゃんと食えって。ちゃんとしてほしい。
そんな体型でよく動けるよ。腕なんかすぐに折れそうだし。
まあ、もやしみたいには僕、なりたくないけど。
スタイルが良いとかのレベルじゃないんだよな。
やっとメンバーが揃った。さあ、話をしようか。
リビングで広めの黒いソファーに2人が少し離れてくつろいでる。
僕はテーブルを挟んで、向かいのシングルソファーが2つ並んでいるうちの右側の方に座ってる。
「そういや、優大。話って何なの? 」
よくぞ聞いてくれた。康太、もう話したくてうずうずしてたんだ。真希ちゃんの話、聞いてもらいたい。
「彼女出来るんだってよ。俺も今から詳しく聞くんだけどな」
快先輩、良い報告が近いうちに出来そうです。彼女になってもらうんだ、きっとそう遠くない。
「へえ、良いなあ。どんな子なの?」
康太がニヤニヤしながら聞いてくる。
実は2人が来る前に、真希ちゃんと少しやり取りをしてた。
写真送ってって言ったら、ちょっと嫌そうだったけどお願いしたんだ。
そうしたら送ってくれるんだから、優しい。
写真には、ぎこちない表情。
初対面の時と同じ顔してる。何度見ても可愛いな。
「可愛いね、いい子そうじゃん」
そうなんだよ康太、絶対にいい子だよ。
裏表なさそうで、嘘つくの苦手に見える。
僕と出会った時も、困りますって顔してて、表情に出やすいんだなって。
だからこそ、乱れたらどうなるかな。意外と大胆だったりして。
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