第73話

「なんで笑ってるの?」


「いやぁ。母さんと俺の若い頃を思い出してな」


「若い頃って、いったいどんな……?」


「今のおめぇらみたいな感じよ」




思わず質問を投げた私にお父さんは曖昧な答えを返してくる。



それってどんなよ⁉と疑問でいっぱいだが、お父さんはそれ以上言うつもりはないのか、目尻を下げたまま思い出に浸っている。



首を傾げてみたってだんまりだ。



皐月は変わらず照れたままだし。




お父さんとお母さんと言えば仲がいい姿しか思い浮かばないんだけど。


今の私たちって、そんな感じ?




いやいや。そんな、まさか。


いつも息がぴったりな二人の姿には程遠いはず。



それとも他人から見れば、そういう風に見えるんだろうか。




「邪魔しちゃ悪いから帰るわ」



疑問が押し寄せてくる中、お父さんはおもむろに立ち上がると「二人でゆっくり話せ」と言って、家を出て行った。



再び二人っきりになった家のリビング。



二人の間に何とも言えない空気が流れる。

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