第58話

「とにかく皐月君は早く一人前なることだな」


「わかりました」


「双葉もしっかり支えてやれ」


「もちろん」


「じゃあ、今日はもう帰っていいぞ」




片付けも終わり、親父さんが話を終わらせるように手のひらで作業台を叩く。



明日の作業が少し残っていたが、後はジイちゃんと二人でやってくれるらしい。



そこはもう好意に甘えて双葉と店を出る。




「疲れたね」


「だな」


「明日も早いのにごめんね」


「あぁ」




人一人分、距離を空けつつ、双葉と話しながら見慣れた通りを二人で歩く。



外はいつも以上に夜の色が濃くて、散った桜が絨毯でも作るようにアスファルトを埋め尽くしていた。




一緒の職場で働いて一緒の家に帰る。



当たり前のことだけど、何だか不思議な気分だ。



普段はバラバラに家へ帰るから余計にそう思うのかも知れない。




こんな風に並んで歩くのって何気に初だしな。



いつもはもっと離れて歩いてるから。



一年も夫婦をやっておいて、それってどうなんだって話だけど。

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