第36話

「ありゃー、ダメだな」


「俺もそう思う」


「双葉も貧乏くじを引かされて可哀想に」




横で見ていたジイちゃんが、同情交じりに言った。




心配そうに、まるで小さい子でも見守るような目で双葉を見やがって。



このジイちゃん、俺には手厳しいが、双葉にはめっぽう甘いからな。



長年この店に勤めて成長を見届けてきただけに、まるで孫娘のようにでも感じているんだろうか。


何かあればすぐに双葉の味方をしようとする。



別にいいけど、その優しさを俺にも見せて欲しいところだ。


毎度、毎度、顎で使いやがって。



今だってほら、しょうがねぇな〜と言いつつ、俺の肩を叩いてる。




「おめぇ、ちょっと店に出て双葉を手伝ってきてやれや」


「あ?こっちはいいのかよ」


「構わん。手が足りてる」




そう言うだけ言って、ジイちゃんはノソノソと元いたコンロの方へ戻っていった。



視線の先には新しく入った筒地の姿があり、既にテキパキと作業に入っている。


 

確かにあの様子じゃ、作業場の方は大丈夫そうだな。


筒地がかなりいい動きをしてるから、充分賄える。




それにまぁ、お義母さんと祖母さんも通常の作業をしていて手が空いてないし。



割れた煎餅の枚数も把握しておきたいところだしな。



大人しく手伝いに行ってやるか。

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