第76話

「これ買ったの最近?」


「そうだよ。前髪を流すのに使ってる」


「前髪だけの割には減り過ぎじゃね?」


「まぁ、毎日使ってるし。最初開けた時に落として零しちゃったから」


「ふーん…」




全然納得出来ない顔で聖也君はワックスの蓋を閉じる。 



機嫌は幾分かマシになったみたいだけど、良くはなっていない。



微妙な空気が流れて暫し沈黙。


あたし1人だけがニコニコ笑っている状況。



火種のワックスがコトと音を立てて棚に戻され、聖也君は棚に寄り掛かるとあたしの顔をじっと見た。


何か言いたげ。


いや、もう、どこからどう見たって疑っている。



もしかして、やばい?


バレちゃったかな…。



逃げ出したい気持ちになりながら、笑顔の仮面を貼り付けたまま聖也君を見つめ返す。

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