第74話

「あたしのやつ」


「男もんじゃん」


「うん。よく固まるし、いいの。それ」


「こんなん持ってなかっただろ」


「持ってたよ。職場に行く時に使ってる」




疑う聖也君に聖母のような微笑みを向ける。


努めて明るく元気な声で。


何でもなさそうに。



聖也君は結構流されるタイプ。


あまり深く考えない。


だから、いつもはそれで大体“そっか”となる。



だけど、今日は疑惑のワックスを見つめたまま。


鬼のように機嫌が悪い。


今にもワックスを床に投げ捨てそう。



あまりの機嫌の悪さにビビる。



後ろめたいだけに耐えられない。

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