第53話

「帰りたくない」


「どうして?」


「兄貴の友達が家に来るって言ってたから」


「そう…」


「毎度騒がしいし、会いたくないんだよね」




片付けをしていたら溜め息を吐きながら言われた。


憂鬱そうに窓の外なんか眺めちゃって背中が寂しい。


そんなに嫌なのかな。




「苦手なの?」


「苦手と言うか…、疲れる。無駄に絡まれるし」


「そっか…」


「うん。だから先生ん家に泊めて」


「はい?」


「ほら、もうすぐテストだし。勉強しなくちゃイケないから」




無邪気に笑って全く悪気が無さそうに東郷は校舎の中でとんでもないことを言う。


学生の本分を盾に取って堂々と。



思わず周りを見渡して“しー”と人差し指を口に当てた。



まだ他の先生も残っているってのに本当にこの子は。


誰かに聞かれたら困る。


説教どころじゃ済まない。

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