第76話

「絶対にキレて店に乗り込んでくるに1票」


「その後、ボコボコに殴られて泣き落とされるに2票」


「店を破壊されてワシ、ついに覚醒するに3票」


「何それ。カッコ良すぎるし、店長」


「まさかのダークホースっすね、店長」




お客さんが少ないのか、店長まで休憩室に入ってきて私たちの会話に交ざる。



親子ほど年が離れた店長は、普段おっとりとしているが、やるときはやる男だ。


ガラの悪いお客さんが来るとビシバシ注意して摘み出してる。



今もポヨンポヨンのお腹を豪快に叩くと「ま、何かあればタックルで追い出すから」と、おちょけた感じで私に言ってくれた。


皆、それに「頼もしい〜」と声を上げて緩やかに笑ってるところからして、この店長が好かれてるのは間違いない。




「いっそ、別の男に乗り換えたらどうです?」


「そうっすよ。そんなポンコツなんてヤメて別の男に乗り替えましょうよ」


「コラコラ。そんなスマホのキャリアを変えるみたいに言わないでよ」


「えー、新しい男の方が性能がいいかも知れませんよ」


「ですね。よく動いて綺麗で出来ることも多そうっす」


「もー、だからスマホじゃないんだから」




スマホの買い替えでも勧めるように、皆がやんわりと別れを促す言葉を並べてくる。


決めるのは飽くまでも私だ、と意思を尊重してくれつつ。




ココでも別れる道を推されるなんて余程、酷い状態に見えるのかな……。



そりゃ頻繁に痣だらけになっていたら、大半の人がそう言うとは思うけど。

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