第74話

「そうしちゃいなよ、村田」


「いいの?」


「いいよ。私もまだ話足りないし」


「そ?じゃあ、お言葉に甘えて泊まろうかな」




私が頷くと村田は屈託なく笑った。


猫が寂しがるから朝には帰る……、と飼い猫ファーストな宣言をしつつ。



この調子じゃ彼女が出来るのもまだまだ先っぽいな……と考えたところで、安心したような焦るような感情が押し寄せる。



やばい。


“村田に彼女が出来たら嫌だ”と思ってしまった。



あれだけ友達だと言い切ってたくせに、1回寝たくらいで友情を飛び越えたことを考えてしまっている。



そんな我儘を言える立場でもないのに。


独り占めしたいなんて最低な独占的。



そう思いつつも、鞄の中からスマホを取り出して電源を落とした私は、とんでもなく狡い女だ。



どうしても、この時間を邪魔されたくない気持ちでいっぱい。


それに兄貴達がいて、気も大きくなっていたんだと思う。



だから一瞬だけ見えた“貴ちゃん”の名前は気付かなかったことにした。



きっと、また殴られるんだろうな……と、2人の後ろでこっそり苦々しい笑みを零しながら―――。

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