第1話

「おいで」




そう言って、両手を広げて私を自分の腕の中に呼び込もうとする、この男。




杉山篤弘すぎやまあつひろ



通称、あっくん。



私、瀬戸内遥奈せとうちはるなの幼なじみだ。




あっくんは中学3年生のくせに受験そっちのけで髪の毛をシルバーに染めている、不良さんだ。




私達が今いるのは学校の4階に上がる階段。



人通りの少ないここは、あっくんのお気に入りのサボりスポットだったりする。




「遥奈、来いよ」




その絶好のサボりスポットで階段に座り込み、ニヤニヤと私を手招きするあっくん。




嫌な予感しかしない。





「……あっくん。何の冗談?」




怪しい雰囲気をまとうあっくんを怪訝な目付きで見つめる。




そもそも、あっくんが私を抱き寄せようとすること自体がありえない。




長い付き合いだけど、こんなの初めてだ。



私とあっくんは恋人でも何でもないし。



それに、あっくんは「おいで」なんて優しく人を呼び寄せるタイプじゃない。



いつもはもっと、





「来ねーとスカートまくっぞ?」




強引な男だ。

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