第88話

「あれから原谷に何もされてねぇ?」


「全然。関わって来ないです」


「ならいい」


「そういう澤田君の状況はどうなんです?」


「あんまり良くはねぇけど、家に居るよりはマシかな」


「そんなに家にいるのが嫌なんですか」


「嫌だ。あいつら人の顔を見る度すげぇ干渉してくるし」



そう言って苦笑いを浮かべる澤田君。


どうやら澤田君の親はかなり過干渉かつ過保護らしい。


顔を合わせる度にあれこれ事細かく近況を聞いてきたり、口出ししてきたりする。


澤田君はそれが嫌であまり家にいたくないそうだ。



「それだけ澤田君のことを大事に思っているんですよ」


「そうは言ってもな。いちいち煩い上に心配しすぎるって言うか……」


「そんなに凄いんですか?」


「やべぇぞ。転校の話も出てるし」



しかも行先は山奥の学校。


スマホの電波も不安定で遊び場の一つも存在しないような場所。


まじか。


澤田君のご両親たら徹底的すぎる。


それはさすがに避けて欲しい。


絶対に嫌だ。




「嫌です。ココにいてください」


「俺だって転校はしたくはねーよ」


「そんなところに行ってピーコと親睦を深める件はどうなるんです?」


「そこもだけど、お前のアホ丸出しの珍回答が見れなくなるのがなぁ。名残惜しい」


「え、私に会えなくなるのが嫌なんですか?」


「そりゃそうだろ」



そう言って澤田君は私から視線を逸らすと少し寂しそうに笑った。


行きたくねーな、って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る