第84話

「礼って…別に何もしてねぇし」


「そんなことを言わずに」


「いや、」


「お願いします!!」


「……わかった。いつか、な」




訝しげに眉を顰めた彼は、派手な見た目とは違って律儀にその紙を胸ポケットに仕舞った。



それを見て誠実な人だと心がホッコリしてる私は、もはやアホなのかも知れない。




「あの、お名前は?」


「……加賀泰生(かが たいせい)だ」


「ありがとうございます。加賀先輩。春からよろしくお願いします」




明るく笑う私に加賀先輩は笑みを零す。



その笑顔が“素”そのもので、少しだけ心が痛んだ。

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