第15話

「お兄ちゃん……」




波の音が鼓膜を揺らし、結い上げた髪に挿した簪(かんざし)がチリンと音を立てる。



桜をモチーフにした1本簪。


大小のビーズが沢山あしらわれた桜色の簪は、お兄ちゃんが亡くなる3日前に買ってくれたものだ。



これを見る度に『おぉ!似合うじゃん』と、無邪気に八重歯を見せて笑っていた、お兄ちゃんの笑顔を思い出す。


言わば形見のようなもの……。




「はぁ…」




熱くなった目頭を誤魔化すように、ぎゅっと目を閉じ、小さく息を吐く。



いつまでもここでグダグダしていられない。


いい加減、戻らなきゃ……。




落ちてきた気持ちを切り替え、スカイデッキに別れを告げて船内のパーティー会場へ向けて歩き出す。

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