第2話



「待たなくていいのに」



頬を撫でる潮風がポツリと呟いた言葉を掻き消す。




午後19時。


港から出航した大型のクルーザーが、汽笛を鳴らし、乗客を乗せてゆったりと3時間の旅に出る。




上品かつ豪華に装飾された船内は、船の中とは思えないくらい煌びやか。



真っ白な船体が闇夜に映え、水面に反射した都会の光が、スカイデッキの照明と合わさり私のピンクの振袖を優しく照らす。




約500名が参加する船上パーティー。


日本舞踊の師範である中村豊子(なかむらとよこ)先生の還暦祝賀会で、名の知れた名家の方々やお弟子さん、豊子先生のファン、その他関係者が集まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る