第76話

「今城さん」


「まぁ!桑子さん…っ」



嫌な思いをさせてしまった事が何だか申し訳なくて。


謝ろうと後ろから声を掛けた瞬間、今城さんが表情を一変させて飛んできた。



流れる小粒の光を飛ばしながらの猛ダッシュ。



まるでご主人様の帰宅を喜ぶ愛犬。


おかえり!おかえり!会いたかった!と尻尾を振る姿まで見えて来そう。



可愛い。


さっきまで怒ってたのにもう笑顔だ。



「迎えに来て下さったの?」


「あー、うん」


「嬉しいわ。今日は何処でランチにしましょうか」


「待って、その前に。あの…、ごめんね。さっき休憩室で萌に絡まれてたでしょう?」


「あら…、見てらっしゃったの?」


「うん。ごめん。止めようと思ったんだけど何だか入り辛くて」



ランチに行こうと私の手を引っ張る今城さんを止め、先程の事を謝る。


すると、彼女は首をぶんぶんと大袈裟に振った。


「そんなの気にしないで。当たり前よ」と。



少し気の毒そうな顔を浮かべて。

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