第63話

なんで……?


 とおもったのだけれども。



「いまのは、君が悪いからな。綾」


「………っ!!」



 そういって、私は美味しくいただかれたのでした。







「っていう結末ですけど……」


「なんで無意識に煽ったのよ!? 馬鹿なの!? それでこうして世話されてれば世話ないじゃない!!」


「……友香ちゃん、お願いだから、もうちょっとボリューム落として……」


「あのね、こっちは出勤してきた草薙さんを見てからそんなことわかりきってたことなのよ。何が悲しくて上司のプライベートを察しなきゃならんのよ!?」


「………どこにスイッチがあるのか全くわからないんだもん……っ!」


「……ここでも天然のパワーが宿っているのね……。恐ろしいわ」


「どうすればいいかな? ……いっそ一週間ぐらい友香ちゃんのところに泊まりに行こうか?」


「別にためはしないけど、それ、帰ってからまた動けなくなるパターンよ」


「それはやだっ!!」


「じゃあおとなしくしてなさい。無闇に誘惑もしちゃダメよ?」


「してないもん!! してないもんっ!!」


「はいはい」



しかし、と、友香は思いを馳せる。


出勤してきた草薙はその腕に大事大事に囲っている綾を横抱きにして現れたのだ。しかも職場に。


 ニッコニコの満面の笑みで現れた草薙とは対照的に、綾のほうはくったりとしていて、何があったかは大人ならば一目瞭然。いやむしろよく連れてきたなと詰め寄りたい。しかも、あろうことかあの男は友香に向かって「今日は綾が動けないと思うから、そばについていてあげて? 友香ちゃんの今日の仕事ね?」なんとのたまいやがった。なんという上司。職権濫用も甚だしい。


 その場にいるスタッフ全員が言葉を失ったのは仕方のないことであった。



「……溺愛なのか、狂愛なのか……わかんないわね、これだと」



 そう呟いてしまったのは、友香としては本当にしょうがないことであったのだった。



「ほら綾。口開けて」


「ん」


「ほれ」


「ん〜っ、おいしぃ……」


「ただのコンビニのゼリーなんだけどね」


「友香ちゃんにお世話されるのこれで何回目になるんだろうか……私もう、自力でここに来ることできない」


「…………ま、全部バレてるからね」


「だよねっ!!」


「ええ。女友達ならギリ許してあげるけど、間違っても職場の男性とかと一緒に来ちゃダメよ。フォローできないからね」


「指輪してるし、大丈夫! 誰も近づいてこないよ!」


「…………それでも気をつけなさい。相手のためにもあんたのためにもよ!」


「う、うん………わかった……?」



 ぽてりと首を傾げる親友を見て、智花は先が思いやられるような気持ちが生まれたのだった。


おまけ 終

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