第55話

「そりゃね。マキちゃんの気持ちは分かるけどさ…、そんな嘘まで吐いて俺の気を引こうとするのはヤメて欲しい」


「……違う」


「違わないでしょ。毎日バカみたいに連絡してきたり、待ち伏せしたり、変な噂まで流したりさ」


「…違うっ」


「でも、ごめんね。正直に言うけど、俺キリちゃんのことが好きなんだよ」


「そうじゃな…、」


「叶うなら付き合いたいし。だからマキちゃんとは…」


「ヤメてよ…っ‼キリちゃんだけはダメ…っっ‼」

 




店中に響きそうな声でマキちゃんは叫んだ。


イスまで倒して立ち上がって切羽詰まった形相をしてる。



店員さんが何事かと店の片隅で、ひそひそ声。



時を同じくして店に入ってきた黒スーツのおじさんまでビックリした顔をしてる。




「お…、お願い。キリちゃん。絶対に絶対にヤメて。絶対にクゲ君とは付き合わないで」


「マキちゃん、」


「本当に騙されてるんだよ。全部、全部、嘘だし。クゲ君はマキまで使ってキリちゃんを陥れようとしてるの」


「な、」


「信じてよ…。お願いだから。騙されないで。何を言われても信じちゃダメ」




そう言ってマキちゃんは堪えきれないように泣き出した。


いきなりの涙に動揺。


呆然と見てることしか出来ない。




「……付き合いきれないね」



そう言ってクゲ君は呆れたように溜め息を吐くと、私の腕を掴んで立ち上がった。



「行こ」と力強く引っ張られ、転けそうになりながら店の外に連れ出される。



振り払おうとしたけど、凄い力で離すことが出来ず、マキちゃんに声も掛けられぬまま。



店を出る瞬間、マキちゃんの方を見たら黒スーツのおじさんが慰めるようにハンカチを差し出していた。

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