断罪、それは救済とも言う

第38話

あれからすぐに、移動をさせられそうになったけれど、それはシエル様の一言でなんとか明日に伸びた。


 泣きはらした私の顔を、大衆の面前に出させる気なのかというその一言に、マリンフォレス様とジュード様の驚いた声が重なって聞こえてきたような気がするけれど、私はもうそれどころではなく、正直、何があったのかよくわからないまま、気づいたら私のいる部屋にはシエル様と、アレク様がいた。



「…………わ、たし……」


「ゆっくりと休みなさい。ただし、泣くのはダメよ。せっかく明日まで引き伸ばしたのに、また引き伸ばさなければいけなくなってしまうわ」


「私のことなんて、気にしなくても……」


「いくらこの国が小さき国だと言っても、貴族たちはいるし、国王も王妃もいるわ。建前上、あまりそういう姿で人前に出ることはよろしくないもの。いいから、ちゃんと眠って、体を心を休めて。今日はここに私もアレクもいる。あなたは一人じゃないし、部屋の鍵もかけさせてもらうわ。誰一人としてこの部屋にはいれない」


「シエル様……どうして、そこまで……」


「明日になればその理由もわかるわよ。ほら、眠りなさい。愛しい子…………」



 優しい声音に、気持ちがリラックスしてしまったのだろう。


 誰もここに来ないという言葉も大きかったし、誰も入れないと言ってくれた力強い言葉もいけなかった。


 私は、そのまま自分でも意識しないうちに、意識を手放し待ったのだった。




**



 “フレスカ”が眠りについたのを見送って、シエルはその場からそっと離れる。扉付近に立っているアレクの方へと歩み寄り、アレクを見つめる。


 目深に帽子をかぶっているとはいえ、ここまで目の前に来られて、それを無視することは、アレクにできるはずもなく、渋々と、シエルが望んでいるであろう行動をとる。


 なんのことはない。手のひらを彼女に向けてあげるだけの行動だ。が、それをした瞬間、目の前のシエルから、思い切り拳が飛んできた。



「……無理だと承知で言いますが、落ち着いてください、シエル様」


「……八つ当たりをしている自覚はあるのよ。それは謝罪するわ。ごめんなさい。でも、無理……無理よ」


「シエル様……」


「ねぇ、どうすればいいのかしら。まだこの国に滞在しなければならないの? もう、いっそ誘拐と言われてもいいからあの子を連れて国に帰りましょう」


「シエル様、気持ちはわかりますが、マレ様やジュード様の努力を水泡に帰すような行動はできるだけやめてあげてください。彼らが報われませんよ」



 アレクのなだめる声に小さくうめき声をあげながら、シエルは“フレスカ”の睡眠の邪魔にならないように、地団駄を踏んだ。

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