一章
幸せと言う名の空虚
第1話
いつも、羨ましいと思っていた。けれど、それは仕方のないことだと思っていた。
私を慕ってくれるその存在は、とても可愛くて、とても綺麗で、とても優しくて。何を取っても、私が何かに勝ることなどなかった。何も持っていないのに。
とても地味で、パッとしない見た目で。気もきかなければ、話すこともとても苦手で。
それなのに、やっぱりあの子は私を慕ってくれた。
周りに敵しかいない私にとって、その存在はとても大きかった。
あの子がいたから、私は笑うことができていたと思っている。あの子が私のそばに来てくれていたから、私はこの場所で生きることができたのだ。
だから、予想もしていなかった。
――その、裏切りを
◇
少しだけ肌寒い日々が続く中で、彼女はそれでもその場から動こうとしなかった。どうせ誰も心配なんてしないと自分の中で勝手に結論づけて、彼女は人を待つ。
と、向こう側から、生き物が見えてくる。
それに気づいて、彼女はぱっと顔を上げる。寒さで少しだけかじかんでしまった手を擦り合わせて、その影が自分が待っているものなのかを確認する。
じっと目を凝らして、見えて来たものに、それが自分が待っていたものと理解した彼女は駆け出した。
体の体系がわからないような衣。裾の部分を引きずらないようにと言う気遣いから、少しだけ裾をたくし上げながら、小走りでそれに近づいていく。
「――姉様っ!? 止めて止めて!」
移動している籠の中から、愛らしい声が聞こえて来て、それが待ちに待った人物だと理解して、嬉しさが胸をつく。
止まった籠から慌てたように出て来た人物に、彼女は彼女なりの精一杯の微笑みを向けた。
「
「
「大丈夫よ。私は」
「……もう、ほら、早くわたくしの籠に一緒にお乗りになって!」
「え。で、でも……、私は……」
「いいのです! わたくしの籠なんですから! ほら、早く!」
「あっ」
彼女――白紅麗は、待ち人――白雪姫に引っ張られるようにしてほとんど無理矢理に籠に乗せられてしまう。戸惑いの表情で白雪姫を見たけれど、白雪姫はにっこりと白紅麗を見るだけで降ろしてくれそうにはない。
仕方なく、白紅麗はそのまま白雪姫の籠に乗ったまま移動をすることとなった。
「ところで、白紅麗姉様はなぜ外で待っておられたのですか?」
「……白雪姫が、戻ってくるって聞いたから、早く会いたくて……」
「……ね、姉様っ! 白雪姫も、姉様にお会いしたかったです!」
「あ、ありがとう。そう言ってくれるのは、白雪姫だけよ」
「なら、白雪姫だけの姉様ですね! とても贅沢です!」
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