第60話
「皇様、最近こちらに来てくれなくて、あたし寂しかったんですよ?」
「あ、ああ……す、まない」
「ふふっ、見てください! あたし、こんなにも綺麗に着飾ったんです! どうですか? 似合います?」
「……」
きらびやかな宝玉を埋め込んだ金の簪を何本も頭に差し込み、目がチカチカするほどの派手な着物をみにつけ、驚くほどに厚塗りされた化粧顔。爪にまで色を指しているところを見つけてしまい、皇は、愕然としてしまう。
よくよく部屋の中を見回してみれば、そこには己の見覚えのない調度品やら宝石、簪、衣などがそこかしこに散在されており、それだけで、柚葉がどれほど好き勝手にやっていたのかが窺える。
何が起こっているのか理解できなくて、思わず口を閉ざすと、柚葉が眉を少し下げて不安そうに皇を見つめた。
「あ…もしかして、似合いませんか?」
「…! あ、いや……お前は、元が綺麗なんだから、そんなにも着飾らなくとも……」
「! 似合いますか!? よかった! 毎日、皇さまでも大和でも、どちらが来てもいいようにここの人たちに“お願い”して、“手伝って”貰った甲斐がありました! お部屋の物も、少し入れ替えてもらったんです。ほら、あたしに似合うでしょう?」
「……柚葉?」
「今度は、大和がいつ来てもいいように見綺麗にしなきゃ! うんと頑張って、うんと褒めてもらいたいもの!」
ーーどこで、間違ったのだろう。
そんなささやきが、聞こえてくる。
何をどう間違ったのだろう。もっと、早くに気づいていれば、ここまで酷いことにはならなかったのではないだろうか。柚葉は、もともと白雪という貴族の姫に仕えていた筈だ。それに、その白雪自身は、別に己を綺麗に着飾ろうとしていたわけではなく、むしろあまりそういったものに興味がなさそうでもあった。
それを近くで見続けてきているはずの少女が、なぜ。どうして、こうなってしまったのか。皇には理解ができない。
壁で、存在を消すようにしている使用人からは、まるで責められているかのような空気を感じる。
それは、皇にとっても真摯に受け止めなければならないことだろうと、皇は後でここにいる全員をここから引かせ、落ち着くまでの休暇を与えようと考える。不自由がないよう、十分な給金を与えて、ここには近づけさせないのが、皇がここの使用人にできる唯一の贖罪とも言えることだ。
皇は、とにかく柚葉からここの使用人を奪うことを考え始める。
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