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最近やけに忙しそうにしてると思ったらノンちゃんってば凄い状況だ。


そりゃ望都も傍観するのをヤメて動き出すはず。


自分の力を見せつける時だと思っていそうだし。



ノンちゃんのお世話役の子分の人かぁ……。


スキンヘッドの厳つい顔をしたオジ様。

元気で人懐っこいオレンジ頭のお兄さん。

寡黙かもくで影のある黒髪のお兄さん。



厳密にいえば他にも居るけど、主に動くのはその3人だ。



その中で親父さんの後を継ぐとなったら黒髪のお兄さんを選ぶ気がする。


ノンちゃんが特に懐いてるからって理由もあるけど、あの人自体、頭が切れるし、親父さんへの忠誠心も強い。


統制力もあるし、人を惹きつける魅力もある。



そもそも私たちの懐にすんなり入ってきてるところからしてやり手だ。


時々ノンちゃんについて電話で聞かれたりもするけど、本当に大切に思ってる感じだし。



ノンちゃんもいつだったか言ってたっけ。


『――あいつの嫁にならなってもいいかも知れん』って。


組に所属してる皆の為を思うならそれが1番いい気がする、と。



それでも“乃愛”呼びを解禁していないところを見ると本気で奥様になる気は無さそう。


あのお世話係さんも他の手下の人と同じく“お嬢”呼びだったはずだし。


――♡――♡――♡――



そもそも状況的にノンちゃんが後を継ぐ気でいるのかすら怪しい。


継ぐ気がないとノンちゃんが言ったからこその婚約取り下げに、望都の暴走に、勝利さんの“付き合う”発言なのかも知れない。



それを親父さんが認めるならまだすんなりいきそうだけど、認めないとなるとかなりの荒れ模様。


歪で波乱な四角関係の出来上がりだ。



仮にそうなったとしたら確実にノンちゃんから報告があると思うけど、スマホは静かなまま。


もしかして断った、とか……?



それはないか。


たとえ振りであろうと付き合う相手が勝利さんならノンちゃんはきっと頷く。


“初カレが出来たニャン”なんてニャン語で照れつつ、ふざけつつ直ぐさま報告してくる。


安藤乃愛じゃなく“ノンちゃん”として。


必ず。


――♡――♡――♡――



「こっちとしては、あいつらが付き合ってくれた方が助かるんだけどな」


「どうしてです?」


「安藤を担ぐヤクザが減るから」


「なるほど。そこは大事ですね」



スマホをカウンターに置き、後ろに居た先輩に視線を向ける。



裏社会の人を敵に回すのは先輩としても本当は避けたいところなんだろう。


助かると言いつつも食器棚に凭れて複雑そうな顔をしてる。



しかし、作ってる間ずっとキッチンに居るのは何故なのか。


広いから全然いいけど、見られてると思うとちょっと緊張。


熱心に視線を浴びつつも再び野菜を切り始める。



「しかしまぁ、組ごと引っかき回し兼ねねぇのに。あいつも大胆な作戦を考えたな」


「先輩だって似たようなモノじゃないですか」


「全然違うだろ。俺の場合は姉貴も婆さんも協力的だし」


「それもそうですけど」


「猫目の場合は余ほど慎重にやらねぇと厄介だ。ヤクザの親分まで怒らせることになるから」



流し台に手を突き、先輩は深刻そうに呟いた。


いつもは強気に押し通す彼がそうやって慎重に考えてるってことは、油断できない相手だと感じているんだろう。 



それも自分だけじゃなく友達が関与していることだから余計に悩んでる。



当たり前か。


どれだけ無敵でしっかりしていても彼はまだ私と同じ高校生だ。


なるべく怒りは買わない方向でいきたいはず。




「そこは勝利さんのことだから上手く躱すんじゃないですか?」


「躱したところでだ。所詮、俺らみてぇなクソガキ。あの界隈のトップなら、どうとでも出来る」


「クソガキって先輩……」


「それこそ親父の力でも借りなきゃ仲良く海に浮かんで終わりだな」



重い口調で先輩が呟く。


やけに暗い顔をしてると思ったら一緒に責任を負う気でいるらしい。



先輩らしいというか何というか。


情が欠落してると言われてるわりには人を放っておけないし、責任感が強い。



先輩のそういうところがお兄ちゃんも好きだったんだろうな……。


愛しく感じるこの気持ちは兄妹揃って同じな気がする。



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