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二菜さんにとっても月奈さんは特別な人だったようだ。
ブラックベリーはお兄ちゃんを恨んでる人の集まりであるのと同時に、月奈さんとも何かしら交流のある人ばかりで構成されているみたい。
そう思ったらジョーカーにとっても月奈さんは特別な人だったのかな。
居なくなったことによって狂うくらい。
私と同じように。
その辺、二菜さんに聞きたいところだけど、アスのことすら教えてくれないくらいだ。
聞いたって答えてはくれないだろう。
隣の勝利さんもきっと考えは私と同じ。
「二菜さんは何の目的があって、そっちのチームに居るの?」
「あたしは皆を本来の道に戻してあげたいからよ」
「逸れた道に行ってる友達を?」
「えぇ。まだ月奈が居た頃の皆に戻してあげたい」
重く暗い表情で二菜さんが呟く。
心の底から望むように。
痛いくらいに気持ちは分かる。
でも、無理だ。
その願いは永遠に叶わない。
――♡――♡――♡――
だって、どう足掻いたって元には戻れないんだもの。
一度心に空いてしまった穴は空いてなかった頃に比べて脆いし、中身はスカスカ。
どれだけ綺麗に塞いでも強く押されれば一瞬で穴が空く。
力いっぱい固くネジを締めたって無駄。
潰れてしまったネジ穴で締めたネジは簡単に外れてしまう。
一見、しっかり締まってるように見えても少し触れただけで簡単に落っこちる。
頭のネジは簡単に。
「戻りたかったら潰すの一択だよ。全員を一旦裏切って」
「辛辣ね」
「大丈夫。失敗してもチエミちゃん達からの信頼は残る」
にこやかに二菜さんに選択肢を投げる勝利さん。
受け取った二菜さんは溜め息交じりに頬杖をつく。
「そこで選択肢を持ってくるなんて。何だかアスがあなたを警戒している理由が分かった気がするわ」
「そう?俺なんかより、うちのボスの方がもっと面倒くさいよ。気付いたら思いのままに動かされてるから」
「……思いのまま?」
「そのうち君も気付くんじゃない?選べる選択肢が1つしかなくなってる、てね」
ふっと小さく笑って勝利さんはケーキスタンドに乗った黄色のマカロンに手を伸ばした。
食べるわけでもなく、じっと見つめてる。
釣られてケーキスタンドを見れば茶色に桃色に紫。
いろんな色のマカロンが置いてある。
心の色を映すように。
――♡――♡――♡――
「……嫌ね。あたしに正体をバラしたのも彼の策のうちなのかしら」
「それ以外に何があるの」
「いったい、あたしに何をさせたくて教えたのよ」
「別に。こっち側の人間が拉致されたら直ぐに居場所を教えて欲しいってそんだけ」
「……絶妙なところを突いてくるわね」
「それくらいなら飲んでくれるでしょ」
「怖いわ。あの男とは大して接点もないのに。考えを全て読まれてるようで気味が悪い」
「何を言ってるの。接点なら沢山あるじゃん。俺やチエミちゃん達と」
見ていたマカロンを私のお皿の上に置き、勝利さんは薄く笑った。
真ん丸な垂れ目が二菜さんを挑発するように見つめる。
「だから?まさか、あなた達から聞いた話だけであたしの考えが読めるってわけでもないでしょう」
「話を聞いただけ?本当にそれだけだと思ってる?だとしたら君も大したことがないね」
「はい?」
「相手の取りそうな行動を分析するにはこの上ないんだよ。普段の何気ない会話って」
「……」
「取る行動1つによってもその人が何を考えて、どういう状況かってことくらいは読めるしね」
それがうちのボスの考え、と勝利さんはサラリと先輩の考えについて語る。
重たい雰囲気が流れて一見かなりシリアスなお茶会だ。
でも、硬い表情を解いた二菜さんを見ると前向きな作戦会議にはなっているのは確か。
交渉成立って感じ。
「しょうがない。おチエとの優先コスプレ撮影権で手を打つわ」
「だってチエミちゃん。頼んだよ」
「えぇっ」
「仕方ないでしょう。世界中を探したってあなた以上に推せるコスプレイヤーは居ないのよ。あたしの中では」
心に抱いた気持ちを吐露し、二菜さんはカメラを手に取って困ったように笑った。
オタク心に勝てるものは他にないの、なんて絶妙に私にも分かるようなことを言いながら――。
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