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「ってことはNo.32も狙うつもりだね」


「えぇ。狩る側のこっちとしては、あなた達の安全地帯は少ない方がいいもの」


「狩る側?いつから自分たちが攻める側だと勘違いしてるの」


「あら、攻めるのはそちら側だとでも?」


「そうだよ。あの一帯は俺らが纏めて占領するから。君たちを1人残らず狩るためにね」




妖艶な笑みを描く二菜さんに勝利さんは強気な眼差しを返す。


テーブルには優雅で華やかなお茶会のセットが並んでるのに、ほとんど手を付けられることもなく、視線と言葉だけで喧嘩をする2人。



苦笑いを浮かべつつ、寂しげなティポットを手に取り、さっきの二菜さんにみたいに紅茶をカップに注ぐ。




「2人とも。本当は協力関係を結ぶために今日の場に来たんでしょう」


「違うわ。おチエとデートをしたかったからよ」


「そうだよ。俺とデートをする約束をしてたでしょ。チエミちゃん」


「そのわりには2人とも、お菓子や私には目もくれずに情報を与え合ってるじゃないですか」




注いだ紅茶を空いてる席に置き、2人にツッコむ。


黙って喧嘩を始めることだって出来るのに、わざわざ宣戦布告のようなことをして。


何か意図のようなものがあってのことじゃないか、って気がしてならない。



“一応、気をつけろよ”なんて軽いノリで私を送り出した先輩を思うと特に。




――♡――♡――♡――



「協力なんてとんでもない。これはおチエ達を危ない目に合わないための情報提供よ」


「そうだよ。君たちを危ない目に合わせないための情報収集だよ」


「つまり私やノンちゃん達を餌にする予定があるってことですか?クラブのメンバーの中で」


「そうよ。じゃなきゃ邪魔なこの男なんて死んでも招待しないわ」


「それがなきゃ、こんな恥ずかしい格好をしてまで話に参加する理由なんてないでしょ」



息ぴったりに返してくる2人に苦々しい笑みを向ける。


仲が良いのか悪いのか分からないや。2人とも。



とにかく二菜さんはそれを知って私たちを危ない目に合わせたくなくてメンバーを裏切ってるし、先輩たちはそんな二菜さんの優しさを見抜いて、上手く彼女を自分たちの陣営に取り込もうとしてる。



万が一にも私たちがクラブのメンバーに捕まったときのことも考えて。




「本気で気をつけなさいよ、おチエ。あたし達だけじゃなくて望都までやる気満々になってるのよ」


「……望都が?」


「勝利君がノンちゃんにちょっかいを出したりするから。変に火が点いちゃってコソコソ不穏な動きをしてるのよ。あの男」


「ふーん。そっか。安藤にとっての弱みってノンちゃんなんだね」


「弱みってあなた……」


「じゃあ、帰ったらノンちゃんに付き合おうって言っておくから。安藤にも伝えておいてよ」


「ヤメなさいって。本当に」


「ごめんね。もう、その気になっちゃったから」




笑いを含んだ声で勝利さんが空いた席に座る。


勝ち気な表情を顔に描いて余裕たっぷりだ。


自信満々。


楽しそうに紅茶を口に運んでる。



本気なのか嘘なのか分からないけど、ノンちゃんが聞いたら鼻血を出してコクコクと頷きそう。


ご主人様が言うなら何だっていいニャンと言って。


――♡――♡――♡――




「ならないで。撤回して」


「知らないよ。喧嘩を売ってきたのはそっちだし」


「ヤメてよ。あなた達のチームは潰したいけど、おチエ達には危ない目にあって欲しくないのよ」



クスクス笑う勝利さんに二菜さんが嫌そうに顔を引き攣らせる。


本気でそうして欲しくなさそう。


そして、勝利さんは本気でそうする気満々だ。




「危ない目に遭わせたくないのに、アスを引っ張り出すのは私にやらせるんですか?」



だとしたら、そうやって疑問に思うのも当然。



危ない目に合わせたくないのに敵の大将に会わせようとするなんて矛盾してる。


そう思う私に二菜さんは困った表情を浮かべた。



「そうでもしなきゃ終わらないから」


「二菜さんが言ってた復讐ごっこが?」


「アスは飽くまでも裏側で指示するだけで表に出てこないの。動くのはクラブのメンバーだけで」


「それで要らなくなったメンバーを捨てて、また新たなメンバーを揃えてリスタートって感じ?」


「そう。自分さえ生き残っていればメンバーはいくらでも集められると思ってる」

  

「そこまでするのは月奈さんって人のため?」


「むしろ全てが月奈を中心に回ってると言ってもいいわ。あたし達のチームは」


「全て?」


「あたし達の真ん中に立ってるのは飽くまでも月奈よ。言わば存在しなきゃいけなかったジョケールはあの子。ジョーカーは後から来た余所者でしかないの」



そう言って二菜さんは遠くにいった友人を思い出すように俯いた。


ジョーカーの正体を知っているような口振りで。



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