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そんな顔で見られる心当たりがあり過ぎて困る。
いったい、お兄ちゃんが書いた手紙にはなんて書いてあったんだろう……。
お兄ちゃんは何をお婆ちゃまに伝えたの?
知りたいけど、後ろめたいことだらけで聞きづらい。
“今は”と言うからには、いつか教えてくれるだろうし。
「ビビってんな。あいつだって婆さんの孫だ。悪いようにはしねぇよ」
先輩は涼しい顔でお婆ちゃまに言い返し、仏壇の引き出しから蝋燭と線香を取り出した。
カチッとライターで火を灯し、オレンジの光がゆらゆらと揺れ、線香の匂いが部屋に漂う。
「そうは言っても不安なんだよ」
「何がそんなに不安?」
「チエミ以上に昴の方が離すまいと必死になってるように思えて」
「それなら心配すんな。あいつ以上に俺の方が離したくなくて必死だから」
だから悪く思うなよ……と先輩はリンを鳴らして呟いた。
お兄ちゃんに宣戦布告するように。
――♡――♡――♡――
「だったらあんた、昴に勝っておくれ。そしたらチエミをやろう」
「そこはやっぱ勝ったらなのか」
「じゃなきゃ、あんたの欲しいチエミとは一生会えん。何が何でもあの子が連れていってしまうからね」
脅すような口振りでお婆ちゃまは前のめり気味に先輩を見つめる。
そうやって縋り付くしかないと思っているかのように。
「じゃ、とりあえず1週間。外泊許可をくれ」
「外泊許可ねぇ……」
「何かあってから動いたって遅いし、こっちから先に相手を揺さぶりたい」
「やられる前にやるってやつかい」
「まぁ正直、ただ一緒に居たいだけだけど。ついでに様子も見れるし、いいだろ」
“な?”と悪戯っ子みたいな笑顔を向けられ、同じように笑ってしまう。
結局、素直に言ってしまうんだ、そこは。
悪巧みにしっかり乗りつつも、やっぱりドコか誠実。
――♡――♡――♡――
「家に居るより安全だと約束してくれるかい?」
「そこはもう絶対だ」
「守り切る覚悟はあるんだろうね?」
「当たり前だろ」
「そう」
低い声で短く呟き、お婆ちゃまはさっと立ち上がると、私に向かって力いっぱい竹刀を振り落とした。
いきなりのことに避けることが出来ず、ひぃぃと肩を竦める。
先輩が横から手を伸ばして振り下ろした竹刀を掴んだが、絶対に痛い。
先輩はさっさと払い除けて表情1つ動かしてないけども。
「何をするの!お婆ちゃま!」
「あんたは黙ってらっしゃい!」
「えぇっ?」
「あたしと泰生の間の話だ」
大声で怒鳴られ、思わずたじろぐ。
長年叱られ続けた所為か反射的に黙ってしました。
スペシャル真面目っ子の顔が前面に出てきてしまったらしい。
腹立たしいと思うのに言うことを聞いてしまってる。
――♡――♡――♡――
「いいかい、連れて行くからには絶対チエミを守っとくれよ」
「分かってる」
「付き合いに関してもだ。泣かせたら許さないよ。ちゃんと大事にしておくれ」
「それも分かってる」
「チエミにもしものことがあってみな。この老い先短い人生、例え地獄に落ちようと復讐の鬼と化してやるぞ」
おどろおどろしく言い放ち、お婆ちゃまは般若のような恐ろしい顔を表情に描く。
相変わらず迫力のある怒り顔だ。
子どもの頃から全く変わってない。
「上等だ。庭で呑気に花でも育てて余生を過ごせよ。ババア」
先輩はそんなお婆ちゃまの脅しに微動だにせず、凛とした目で言葉を吐き捨てた。
本当に喧嘩上等って感じ。
しかし2人とも睨み合ってたと思ったら、ふっと表情を崩した。
楽しそうに。
「衰えてねぇな」
「当たり前さね。そう簡単に老いてたまるもんか」
「頼もしいな。その調子で敵が来ても叩き倒してくれ」
「心配は要らん。うちには美枝子が居るからね」
オカンが居るなら余裕だ、なんて2人とも物凄く穏やかにケラケラ笑い合う。
そんな化け物のように扱って、お母さんが聞いたらブチギレMAX美枝子になりそうだ。
一応、か弱い乙女だと自称してるし。
「さぁ、後のことはババに任せて。お父さん達が帰って来るまでに用意して出て行きな」
「ありがとう。お婆ちゃま」
「構わん。いっそのこと楽しんでおいで」
“美枝子に見つかると恐ろしいぞ”と軽くふざけながら、お婆ちゃまは私と先輩の背中を押してくれた。
とりあえず1週間だけだからね、と念を押すように言って――。
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