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「お婆ちゃま、そこに置いてあった写真は?」
「あぁ、見ると寂しくなるもんでね。片付けたのよ」
「お爺ちゃんのも?」
「そうよ。纏めて大切に仕舞ってある」
思わず尋ねるとお婆ちゃまは仏壇の下の引き出しから眼鏡を取り出し、寂しげに微笑んだ。
お兄ちゃんの四十九日に合わせて、お爺ちゃんの写真も一緒に片付けてしまったらしい。
お婆ちゃまは悩んだりすると、よくお爺ちゃんの写真に語りかけたりしてた。
なのに、それも……?
私が見るかも知れないからかな?
その辺、お婆ちゃまは私がおかしくならないかピリピリしてる、とお姉ちゃんも言ってたし。
何だかちょっと罪悪感だ。
大切な物を取り上げてしまったように感じる。
「何やってんだ。廊下なんかで喋ってねぇで中に入れよ」
「えっ」
「暫く家に帰らねぇんだから、ちゃんと爺さんらに“行ってきます”って言っとけ」
お兄ちゃんに対してというより皆への挨拶を促すように、先輩から背中を押され、仏間に足を一歩踏み入れる。
あ、入っちゃった……なんて考えた頃には身体が全て仏間の中に入っていて。
先輩は部屋の襖を閉めると、さっさと仏壇の前に置いてある座布団の上に座った。
あれだけ仏間に入るのに抵抗があったのに随分あっさり。
蝋燭に火を点けてお線香にも火を点けて『来い』と手招かれる。
――♡――♡――♡――
「帰らないとは性急な。あたしはまだ認めたつもりはないよ」
「でも、それ。昴を恨んでるやつが送ってきてるから。家に居るより他所で過ごす方が安全だろ」
「昴を恨んで……?それで、どうしてチエミ宛に送られてきてるんだね?」
真っ赤なメッセージカードに目を通したお婆ちゃまが暗い表情で顔を上げる。
“この手紙は何だ?”と疑問に思って当然な質問を投げられたから、先輩と一緒に事情を説明した。
毎月、月命日に届いてることも、今日は様子が違ったことも、お兄ちゃんにも届けられていたことも。
お兄ちゃんを潰すために作られたブラックベリーってチームが存在することも、そのメンバーから私が狙われていることも。
簡単にだけど全部。
「それじゃあ、あの子はこの手紙に呼び出されて、あの廃ホテルに行ったのかい?」
「そうだと思う」
「何とまぁ恐ろしい。警察に相談した方がいいんじゃないかね」
「言ったところでだ。警察にも向こうの手が回ってるから」
「だとしたら捜査の方も……」
「だろうな」
「自分で逝ったんじゃないのか」
お婆ちゃまはそれを知って、怒るでもなく悲しむでもなくただ肩を落とした。
悔しい、と。
――♡――♡――♡――
「あんた、あれだけ違うと言ってたのに。信じてやらんで悪かったね」
「いいのよ。お婆ちゃま」
「だからかねぇ……。亡くなった次の日に昴から手紙を貰ったんだよ」
「……次の日に?」
「正しくはその日に見つけただね。あたし宛の手紙が仏壇のこの引き出しの中に入れてあった」
憂鬱げに瞼を伏せ、お婆ちゃまは仏壇の引き出しを指で撫でた。
そこには普段、蝋燭とか線香とか仏壇に必要な物が入っている。
仏壇のお世話は基本的にお婆ちゃまがしてるから、そこに入れておけば1日に1回は見るだろう。
朝、開けることが多いから、きっと次の日に読んで欲しくて入れたんだと思う。
単に入れた時間帯がお婆ちゃまが開けるより遅かっただけかも知れないけど。
――♡――♡――♡――
「どんな手紙だったの?」
「今は言えん」
「えー…。どうして?」
「教えるべきじゃないからさ」
「そう思うような内容なのかよ」
「……いいや。1行にも満たない言葉さ。ただ、あたしはあの子の魂がそこに込められてる気がして。少し恐ろしいものに感じる」
暗い顔付きでそう言ってお婆ちゃまは私を真っ直ぐ見つめた。
緊張したように瞳を揺らして。
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