THIRTY-SIX
p.9
★
「ふーん。本当に届いてんのな」
太陽の暑さをじりじりと感じさせる、6月半ばの日曜日。
先輩の家にお泊まりした次の日のお昼。
家の門の前で加賀先輩が私の手から真っ赤なメッセージカードを奪い、重々しく呟く。
月命日の20日まで残すところ4日。
しかし、白い便箋に入れられた“それ”は今までとは違い、月命日と全く関係のない今日、家のポストに入っていた。
内容は相変わらずな感じで今回もメッセージと一緒に数字が書かれてある。
前回から1つ減って“2”だ。
0まで残すところ後2回。
1番強いカードがいったい何なのかは知らないが、確実に終わりには近づいていってる。
――♡――♡――♡――
「直接、家のポストに放り込んでるよな」
「そうですね。住所も書いていなければ切手も貼ってありませんし」
「時間帯は?いつもこの時間?」
「いえ。入れてるのは夜か深夜だと思います。朝早くに取り出してたんで」
何処か不気味に感じる“それ”を忌々しげに見つめ、先輩の質問に答える。
お母さんやお婆ちゃまに見つかりたくないから、いつも朝一番にポストを覗きにいってた。
毎朝2人のどちらかが新聞を取りに行くから、それまでに見に行って新聞と一緒に回収してくるのが毎度の流れ。
どれだけ早い時間に取りに行っても絶対にポストの中に入ってるから、時間帯はそれで間違いない。
「だとしたら、お前の行動を見張ってる可能性があるな」
「まさかー。それはないでしょう」
「あるだろ。届ける日にちだって家に帰らねぇのを見越して先に入れたに違いねぇ」
「そんな。私が先輩の家に泊まるなんて向こうは知りませんし……」
何と言ってもそれは昨日先輩と2人だけで決めたことだ。
あんな高層マンションのお風呂場での会話を盗み聞くことは出来ないと思うし、あれだけセキュリティがしっかりしてて誰も入れてない家に盗聴器を仕掛ける可能性も低い。
かと言って、いつものルーティンが変わってしまったことには違和感を感じざるを得ないけども。
――♡――♡――♡――
「今週はチームに顔を出せねぇって連絡を入れたし。お前と俺の仲を知ってたら、ある程度は予想がつくんじゃねぇの」
いつの間にそんな連絡を入れたんだか、先輩はそこから話が漏れてるような言い方をした。
先輩がチームに顔を出さなかっただけで相手がそこまでの考えに至るとも考えづらいが、送り主が私たちの予定を知る手段がないとなると“予想を立てた”以外はないだろう。
「連絡を入れたって誰に?」
「勝利にだよ」
「勝利さん?」
「そこからチームの幹部に話がいって、メンバーにも広がったと思えば、誰の耳に入っててもおかしくはねぇ」
「えー。行動を見られてるんですか?」
「じゃなきゃ、お前が家を開ける日に限って別の日にちに、それも帰ってくる時間に入ってるのは変だろ」
「まぁ確かに……。新聞は取り出してあるから、お母さんかお婆ちゃまのどちらかが一度はポストを覗いてるでしょうしね」
「お前のオカンや婆さんの性格的に見落とした線は少なそうだしな」
カードを私の手元に届けるために、マンションの下で見張ってたんじゃないかと先輩が涼しい顔で予想を立てる。
焦る私とは違い、落ち着き払った様子で。
それで正解な気がするけど、もしそうなら最悪だ。
だって気味が悪い。
家も知ってて行動も見張ってるくせに、それ以上のことを何もして来ないのが。
仮にもブラックベリーのメンバーは私の存在を探してる状態なわけだし、居場所を知ってるなら襲撃の1つくらい受けててもおかしくはないはず。
――♡――♡――♡――
だけど、我が家の周りはいつも通り平和だ。
門から庭の方を覗けば、爽やかな風が木々と花を揺らし、遊びにきたであろう近所の飼い猫が縁側の下で気持ち良さそうにお昼寝をしている。
普段の日曜日と何も変わらない。
「まぁ、いい。予想通りだ」
「予想通り……?」
「カードが届く日にお前が家に居なかったら、どうなるのか知りたかったから」
「もしかして、それであんなに一緒に住もうとか泊まれって言ってたんですか?」
「それは純粋にお前と居たかったからだ。こっちはついでだよ」
そう言って先輩は忌々しいそのメッセージカードを封筒ごと黒いリュックの中に仕舞った。
そのリュックの中には今日お婆ちゃまに渡す予定のお菓子と茶封筒が入っている。
茶封筒の中身は何かは教えてくれなかったけど、書類のような物を入れてたのは見た。
いったい、お婆ちゃまとどんな取引をする気なのか……。
分からないけど、お婆ちゃまが好きな和菓子屋の羊羹をちゃっかり用意してくるんだから、先輩は本当に隙がない。
昨日のアレだって、かなり徹底的だったし。
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